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几帳 KICHOU

私たちが手掛ける調度品の中に、几帳 (きちょう) というものがあります。


言うなれば、布地で出来た衝立のようなものです。

今風に言うと、パーテーションになるのでしょうか。


本来は、白の無地の生地に、紋擦りなどを施したシンプルなものですが、

現代に至っては、様々な布地を使用し、色鮮やかなものや、絢爛豪華な

ものなど、多岐に渡ります。



平安時代 貴族の建物は 『寝殿造り』 という木造で、高床式の住居です。

敷地の正面に、太鼓橋というアーチ型の橋を備えた庭園を配し、その南側に

建物を置くという、ある種の決まりがありました。



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有職故実   YUSOKU KOJITSU


また、建物の中においても、寝殿造りと定義付ける様式があります。

それは、襖や板戸などの建具がないという事です。


建物と外を仕切るための蔀戸 (しとみど) という格子戸はありますが、

内部は、大広間が一面に広がっているだけです。


その大広間で、食事をし、書を認めたり、出掛ける身支度をし、寝床を

設えたりしていたのだと思われます。


これでは、プライベートというものを保つ事が困難です。


そこで、重宝されたのが、几帳という布地の衝立です。


空間を仕切るのに使ったり、几帳の裏で着替えをしたりと

プライベートを保つだけでなく、様々な場面で使われていたようです。


時代を経て、シンプルな物から、匠を凝らした織物などを表生地に

使用するようになり、現代でも受け継がれています。



理由は定かではないのですが、私の会社では、よく几帳のお仕立てを

依頼されることが多いのです。


先日も、初来のお客様がお見えになり、着物の反物を持って来られました。


奥様のお話によると、娘が着るようにと用意された訪問着用の着物だそうですが、

『私は着物は着ないと』 と断言されて、暫くのあいだタンスの肥やしとなっていた

反物だそうです。


やはり、それではという事で、几帳に仕立て替えが出来ないかと相談に来られ

た次第です。


反物を見た瞬間、この柄行は几帳に映えそうだと直感しましたので、

お勧めしました。



まずは、几帳に見合うだけの生地が確保できるか、確認しないといけません。

本来は着物になるべき反物なので、描かれた絵柄がバランス良く、几帳に

合わせられるか、ハサミを入れる前に検討します。


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有職故実   YUSOKU KOJITSU

絵柄だけ優先すると、今度は大きさが足りなくなり、台に掛けられない

という別の問題も出てきます。

その兼ね合いが難しく、悩ませられます。



全体的な色目を考え、組紐を飾り房として使用し出来上がります。



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有職故実   YUSOKU KOJITSU


着物の絵柄の良さもあり、非常に躍動感のある設えになった

のではないかと思います。


着物は着るものですが、1枚の絵画のようにも思えます。

染職に金箔、刺繍まで施された1枚の絵の布。

それを絹の繊維に落とし込み、晴れの舞台に羽織る。


総合芸術だと改めて実感させられます。


奥様の満面の笑みを見て、安心すると共に、使われていなかった

物を甦らせた満足感も、しみじみと感じました。


この几帳を見た娘様が、着物の良さを違う視点で感じて頂き、着物が

着たいとなってくれれば良いのになぁと願いを込めて。。。



皆様も、一度タンスの肥やしとなった着物を出されてみては如何でしょうか。




追記


几帳面という言葉、几帳の表面が丁寧に細かく仕上げられている様から

ついた言葉だそうです。

















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