着物が収納されたタンスを開けると、『文庫紙』 という包装紙に包まれ
いるのを、皆さんも一度は見たことがあるのではないでしょうか。
この包装紙を 『文庫紙』 または 『たとう紙』 と言います。
もともと文庫とは、装飾品や髪飾り、茶道具、筆など高価な物を
収納する丈夫な箱のことを指します。
着物も高価なものなので、包む包装紙も文庫紙となぞらえたと
いうことです。
文庫と聞くと、今では書籍の文庫本を連想されると思いますが、
白い紙も昔にしてみれば貴重なもの、それを保護するために表装
を施したので、後に文庫本と呼ぶようになったと言われています。
一方、たとう紙は漢字で書くと 『畳紙』 『多当紙』 と書きます。
畳紙は、お察しの通り、日本の居住環境から起因しており、
着物は畳の上で広げ、着装することから呼ばれるようになったそうです。
多当紙は、昔は大きい紙を手に入れることが非常に困難で、和紙や美濃紙
などを貼り合わせて、着物が入る大きさにしたことから、この名が付いたと
言われています。
私たち装束店にとっても、この文庫紙は欠かせない物なのです。
仕立て上がった装束は必ず文庫紙に包んで納めます。
時に文庫紙は、名刺より力を発揮することもあります。
『50年以上前に、あなたの先々代に装束をお願いした事がある』
と、お電話を頂くことがあります。
装束は傷んでもう無いのだが、うちの屋号の入った文庫紙の切れ端を
残しておいたという事だそうです。
このような事から、私は文庫紙に少々こだわりを持っています。
紙の質や、デザイン、レイアウトなどを吟味しています。
また何十年後かに、色褪せボロボロになった文庫紙の切れ端を
持って来られる方々のために。