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Channel: 有職故実 YUSOKU KOJITSU
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日向と日陰

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5月15日 今年も賀茂祭(葵祭)が開催されました。


私は、衣紋方(えもんかた)として葵祭に参加させて
頂きました。つまり行列に出られる方の装束の着付け役と
して裏方を担当させて頂きました。

先輩の装束司が高齢の為、若輩の私にその役目を引き継いで
下さいました。



このブログを投稿する事に、実は躊躇いがありました。


数有る京都の祭礼の中でも最古のもので、厳粛かつ優雅な
葵祭のバックヤードをお伝えする事は間違っていると思われる
方もおられるはずで、無意味な事かもしれません。

しかし、子供の時から見ていた葵祭を初めて裏方として携わり
舞台袖から見て、気付いたのは、あの荘厳なお祭を催行される
為に何れ程多くの方々の尽力が費やされているかという事です。
またその結晶が、日本各地、世界各国の人々の京都に対する
魅力に繋がっているのではないかと感じたからです。


この事を前置きとして、ここに記しておきます。




午前7時に京都御苑の紫宸殿に集合し、それぞれの配置に
着いて役割ごとに装束を着せていきます。



間違いが無いように装束が丁寧に纏められています。




人だけではなく、勅使を乗せる馬たちも綺麗な鞍飾り
を付けるため、大人しくその番を待ちます。











総勢約500名ほどの参列者の身支度を整える為に
数多くの専門の衣紋者、装束司、神具に携わる職人を始め
大垂髪(おすべらかし)など宮中結髪の専門家
化粧などを担当する美容関係の方
馬の準備をされる調教師の方々
保存会の方々、氏子の方々、護衛の為の皇宮警察官
神職の方々、宮内庁の方、京都御苑の職員、報道関係の方
と様々な人が集まり、10時の出発に向けて慌ただしく
各々の仕事に奔走していました。


その裏方の人数の多さは、行列に参列される方を凌ぐほどです。












陽が当たる場所があるということは同時に日陰も存在します。

賀茂祭などの神事に限った事ではなく、
どのような事でも同じなのですが、日陰の存在が
あるからこそ日向はより輝きを放つのだと思います。

京都の奥深さは、こうした日陰の存在が多くあり
その存在が連綿と絶える事なく今日まで続けていける
環境にあることが所以なのかもしれません。



今年の葵祭は、途中小雨の降る天候で観覧される方には
少し気の毒だったのかもしれません。

故事から紐解くと、このお祭りの起源は1400年程前の
京都では、この時期風水害が多発して飢饉に貧していました。
そこで賀茂祭を催行したところ、天気が好転し五穀豊になった
そうです。

賀茂祭に雨は付き物ということなのでしょうか。






実際、翌日は見事な五月晴れとなりました。














寄進 Contribution

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Crowd Funding クラウドファンディング

最近よく耳にする言葉です。

Crowd (群衆)と Funding (資金調達)を組み合わせた
造語で、インターネットを介して、不特定多数の方から
出資を募り、プロジェクトや事業、また様々な活動の
支援を行う仕組みの事を言います。

ソーシャルネットワークなどの普及に伴い、その仕組みは
世界中に広まりつつあり、個人の方でも小額の資金提供を
呼び掛け、プロジェクトを実行するケースも増えています。

新しいフリーソフトの開発、アーティストの活動支援、
発明品の開発、または映画製作など、クラウドファンディング
の仕組みを利用して、次々に実現に向かっています。

皆さんも、何か実現したい活動があれば、この仕組みを
使えば実現に近づくのです。

インターネット、ソーシャルメディアの普及の恩恵です。



と、横文字の新しい言葉を羅列して書きましたが
仕組み自体は、何も新しいものではありません。


「寄進」日本に昔からある言葉で同じ仕組みです。


寺社仏閣などで、何かを新調する際、金銭などを
その事業の為に寄付することを指します。


神社、また氏子中で改修の費用を負担するのには
限界があります。そこで広く様々な方に事業の説明
をして、お宮のある地域の活性化の一助となるように
寄付を募ります。


例えば、地元を離れ生活をしている方が、生まれ育った
地域にある神社の改修事業に寄進をしたり、還暦を迎えられた
方が、今まで健康に生活してこれた事に感謝の意を込めて
物品をお供えされることがあります。


普及するツールや、言葉を変えたことで注目されている
仕組みですが、古来から長く続けられている日本の風習です。



ある職人からのお声掛けにより、寄進という風習を改めて
認知してもらうため、クラウドファンディングの手法を用いて
大変意義ある事業のお手伝いをさせて頂く事になりました。


創刊109年を迎える、婦人画報が誌面とWEBマガジンで
危機に瀕している手仕事、工芸職人たちを今後も絶える
ことなく継承していけるようにと考えられた企画です。


つくろう!日本の手仕事の未来 婦人画報WEBサイトより


クラウドファンディングにより、集められた寄進をもとに
世界一の魔鏡を製作し、岩手県陸前高田で復興されるつつある
今泉天満宮に、その魔鏡を寄贈するという事業です。


製作をする職人は、以前このブログでもご紹介した
山本合金製作所の山本氏によるものです。







これは、弊社と魔鏡を作る山本氏との共同企画で
製作している「懐 ふところ」という小型の魔鏡を
内封したお守りです。


これをこの婦人画報の企画にご賛同頂き寄進をして頂いた方の
お返しの品として選んで頂きました。


装束店を営む私として、お宮の再建の一助になりえる
ことは大変光栄な事でありますし、この企画がネットを
通じて広く世界に発信される事により、手仕事の素晴らしさ
や力強さ、また逆に伝統工芸に従事する我々が直面している現実
をも広く認識して頂けることに大変感慨深いものを感じます。


個の力ではなし得ないことも、複数で共有することで
実現することを願います。



詳細は婦人画報のサイトよりご覧下さい。








制限 Limit

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10日程前、過去に教わった話が蘇ることがありました。


5年前に遡るのですが、舞台衣装を手掛けた時の話です。
能楽師、狂言師の方々と3年間舞台を通じてご一緒する
ことがあり、色々お話を聞かせて頂きました。


能、狂言では演者の所作や動きは極端に抑えられ
舞台も松の絵が描かれた3間 (5.4m) 四方の板間でのみ
行われる。敢えて制限を持たせている。


演者は動きに制限がある中で最大限に表現を試みるし
また、鑑賞する側も最大限に想像力を働かせてゆかないと
話の筋すら理解出来ない。
互いに想像力がなければ成り立たない。


ヨーロッパのオペラなどと対局にあり、全てにおいて
いい意味での縛りを活かし、研ぎ澄まされた美意識を
表現するのが日本の舞台と言われました。


もともと屋外で行われてきた事にも起因しているとは
思うのですが、簡素であるが故に成し得た美意識かも
しれません。






10日程前に、ある催しに協力させて頂きました。

「うつろひ草子」

夕暮れの陽の灯りから、闇夜に灯る和ろうそくの
灯りに移りゆく僅かなひと時を、文化や芸能に趣く
ことを体現して頂くという企画です。





私の手掛けた装束(狩衣)などを会場に設え、
笙の演奏を聴いて頂くという事を来場者の方々と
共有するものでした。


作り手側からすると、糸の色目や文様を吟味して
作り上げた装束なので、明るい場所で細部まで観て頂くのも
希望としてはありますが、装束の誕生は今から約1200年ほど
前です、勿論その頃に電気の照明器具などは存在もせず、
夜はろうそくや灯明の灯りのもとで装束は観られていたはずです。

寧ろ、ろうそくなどの灯りで観るほうが自然なのです。





この日は笙の演奏も和ろうそくの灯りのもとで
奏でて頂いたのですが、和ろうそくの仄かな明るさは
いい意味で視覚に縛りを設け、聴くことに集中すること
を可能にして普段とは違う感覚を感じて頂けたようです。


制限を設けることで、人はそれを補おうとあらゆる感覚を
駆使して、想像力を働かせることを身を持って経験出来ました。



最後に、ご参加頂いた皆様に改めて感謝を申し上げますと
共に、今後も日本の伝統美に触れて頂きたく存じます。

また、企画全てに携わられた Terminal81 宮下直樹氏、
笙の演奏を披露して頂いた井原季子氏
主催並びに素晴らしい場をご提供頂いた有斐斎 弘道館の皆々様、

皆様のご協力無くしては叶わなかった機会を頂けて感謝申し上げます。









掲載写真はすべて、Terminal 宮下直樹氏撮影によるものです。

うつろひ草子詳細

有斐斎 弘道館ホームページ

宮下直樹氏 terminal 81


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