皆さんのお着物の中に、家紋の入ったものがお有りだと
思いますが、それぞれにその家の紋(マーク)あり、それを衣服に
充てがう文化があるのは、日本らしい風習だと思います。
その紋のデザインは丸の形をしているもが多いと思います。
装束で狩衣などに使用する文様にも丸の紋を多く使います。
有職装束に使う丸紋も多種多様にあるのですが、代表的で
比較的多く使用される丸紋を幾つか下に挙げます。
臥蝶の丸 じんちょうのまる
雲鶴の丸 うんかくのまる
花鳥の丸 かちょうのまる
植物や動物など自然界のものを丸の中に描く意匠が特徴です。
丸紋以外にも、形としては色々とあるのですが、丸を基本形として
のデザインが多く取り入れられています。
ではなぜ、丸紋が多いのか?という疑問が湧いてきます。
連珠円紋(れんじゅえんもん)と呼ばれる意匠の写真です。
6世紀ごろに生み出された柄だと云われています。
発祥地はソグド、今のウズベキスタンの辺りという事です。
ウズベキスタンやタジキスタンなどの所謂中央アジア圏は
古来から西と東を結ぶ、重要な貿易の要の都市として発展して
きた場所だそうです。
丸の中に、鳥獣、狩猟、樹下動物、花紋を入れ込み形成された
一連のデザインは、装束で扱う有職文様に起因している
ように思います。
また、丸の中にいる動物などは、番(つがい)で左右対称のものが
多く、上で挙げた雲鶴紋などと作りが似ています。
ある意味、敢えて丸の中だけで表現するという制限を持たせて
いるかのようで、非常にコンパクトに模様を表現するように出来て
いるように思えます。
また、鶴と雲や、鳥と花など何かと組み合わせるパターンも
多く見受けられます。その組み合わせで1つの情景を思い浮かばせます。
四騎獅子狩紋錦 (しきししかりもんきん)
思わず舌を噛みそうな名前ですが、これは日本最古の木造建築
として知られる法隆寺に残されている国宝の錦の生地の写真です。
樹下動物 樹木を中心として、馬に跨った貴人が獅子狩りをしている
風景が連珠円紋の中に描かれています。
中央に配した樹木がその背景を表現するのに効果的に使われて
います。こうした図案は、樹下動物と言われ、有職文様でも
見受けられます。
これは、正倉院に保管されている屏風の1つで
鹿草木來纈屏風(しかくさききょうけちのびょうぶ)と読みます。
もう完全に舌は噛んでしまいます。
古代ペルシャでは、天空には恵みの雨を降らせる深海があり
その海中には、ハマオという聖樹があり、不死の霊薬が作られる
という伝承があるとされ、その木の下は聖地や楽園を意味し、
その場所にいる動物たちは清められ祝福されることを表している
と記されています。
水場があり樹木が生い茂る所には動物たちも集うという
理想郷を描いています。
中央アジア圏は砂漠地帯ですので、長い交易の旅路は困難を
極めたのではないでしょうか、その途中にあるオアシスが
商人たちにとって理想郷であったのかもしれません。
最後に、日本に今もある樹下動物の文様を紹介します。
桐竹鳳凰麒麟 きりたけほうおうきりん
装束の文様として使用されるのは天皇のみとされています。
平穏な時代を治めた君主を褒めるために、天上より舞い降りる
鳳凰は桐の木に巣くい、60年に1度実る竹の実を食べ、現世に
巣くうとされる。しかし国が荒れると、たちまち天上に飛び去って
しまう。
このような平穏の状態を表す柄としての意味合いから
天皇の装束のみに用いるようにと定めてあります。
このように1つの意匠から読み取れる意味合いは実に興味深く
人種や国を問わず、美しいものが集う世界は平穏だということ
を説いているように感じますし、
人間の理想郷に対する飽くなき追求も感じ取れます。
毎度ながらの長文のお付き合い、有難うございます。